日本人とコーヒー
コーヒーという言葉はアラビア語のカーフェからきたもので もとはワインを意味する言葉のひとつでしたが
やがてコーヒーを指すようになります。豆を挽いて水と一緒に煮ると飲物になるということが分かるまで
コーヒー豆はかんで味わうものでした。初めてコーヒーが飲まれたのはどこで いつなのかはナゾですが
文献上にみられるのは 13世紀のアラビア 15世紀のエチオピアでした。17世紀後半になって
コーヒーは トルコ帝国からイタリアのベニスを経由してヨーロッパに伝わっていきましたが当時は金持ち
の それも薬としての飲物だったといいます。
日本ではだれが初めてコーヒーを飲んだか分かりませんが 17世紀後半に長崎出島に出入りして
いた通詞(今の通訳)か遊女の誰かであろう といわれています。ひと握りの人しかコーヒーを味わえ
なかった江戸時代に 当時の医師たちがコーヒーを飲んでみて その効果についての記録が残って
います。「長崎見聞録」には「かふひぃは脾を運化し溜飲を消し 気を降ろす。よく小便を通じ胸脾を
快くす。平胃酸 はなはだ効あり」と記されています。コーヒーの健胃作用 中枢興奮作用 利尿
作用について簡潔に書いてあります。中国にもコーヒーを薬として用いたという文献が残っており
西北地方の少数民族には今でもコーヒーを薬として用いています。
近代科学に目を向けさせてくれたシーボルトはコーヒーを薬用として紹介しており 飲用として
知られるのは日本の鎖国が解かれてからでした。江戸時代 長崎の役人をしたことのある文人
太田魯山人のコーヒー評は「焦げ臭くて味わうに堪えず」でした。
- コーヒーを飲む習慣を広めたのは漁師だった!?
コーヒー がいくらか一般の手の届く飲物になったのは 明治維新以降でした。
1888年(明治21年)東京下谷の西黒門町(現在の台東区)に洋行帰りの方が開いた
「可否茶館」が我が国最初の喫茶店として有名です。「カヒー1碗一銭半 同牛乳入二銭」
の記録が残っています。
若者の知的な社交場を目指したコーヒーハウスは結局経営が軌道にのらず4〜5年後には
消えていきましたが 明治後期には続々とカフェが誕生します。明治末期「カフェ・パウリスタ」
「メゾン鴻の巣」「カフェ・プランタン」「カフェライオン」等のカフェが日本コーヒーの開花期に誕生
しました。西欧諸国のカフェがそうであったように 日本も当初はエリート・文士や芸術家が
集まりました。
昭和初期 南紀の遠洋漁業に従事する漁師の間に 出漁する前に熱いコーヒーをを一杯
という習慣が広まっていたといいます。日本ではこのころ海外への出稼ぎも頻繁でこれらの人
がコーヒーを飲用し それが一般にも広がり消費量は増大して 1937年(昭和12年)に
コーヒー黄金時代を迎えます。しかし以後 減少の一途をたどり第二次世界大戦に突入
して輸入ストップの「コーヒー暗黒時代」となりました。
日本の庶民がコーヒーを気軽に飲むようになるのは 第二次世界大戦後となりました。
- 当時 日本人はコーヒーの分量以上に砂糖を入れる甘党だった。
戦後間もない1950年ころから日本は 中南米の工業製品輸出の見返りとしてコーヒーを
輸入せざる得なくなりました。供給が先にあって消費は後からというわけで 日本人はコーヒー
の本質を知らないのが多かったのもその時期でした。
1960年代に入って 日本にコーヒーが出回り始めたころはコーヒーを飲む人たちの砂糖の
使用量が非常に多く 12gで抽出したコーヒーに12g以上の砂糖を入れるのは普通で
ブラックで飲む人は皆無といってよかったのです。
苦味に弱い日本人は苦味を消すために大量の砂糖を使ったと考えられますが 1970年
以前はエネルギーを強度に使う肉体労働が多い社会で 過度の糖分を好む生理的状態
でもありました。近年肉体労働が極端に減ってきたために糖分への欲求が減少し さらに
砂糖は成人病の高い危険分子だといわれるようになり 甘味少なめの社会になってきました。
このように甘味を減らすのが一般的に広がると同時に 味覚刺激に強い苦味が精神的
ストレスを緩和するためにコーヒーのブラック党が増えたりで 多様なコーヒーの飲み方につな
がってきています。1970年代から急増してきたユニークな日本の「喫茶店」は1987年に
16万店とピークに達しましたが その後急速に減少しているのはなぜか。インスタントコーヒー
や缶コーヒーの普及も要因の一つかもしれませんが 家庭やオフィスでコーヒーを飲むことが
一般化したからでした。
日本は現在 コーヒー輸入総量が世界3位にもかかわらず 一人当りの消費量は12位と
少ないのです。食文化の観点から見ればコーヒー飲用が定着してから まだ半世紀ほどで
コーヒー歴の浅い日本は発展途上国かもしれません。しかし 今コーヒーは日常の飲物と
なり 喫茶店のみならず家庭でも職場でも 構えることなく飲まれています。日本人が
コーヒーを「欧米並みに楽しむ」ことが定着したのかもしれません。
店主独り言
身近な例で言えば 富士・富士宮地域の方より漁師町である由比・蒲原地域の方の
ほうが普段から喫茶店利用だけでなく家庭でも楽しまれている方が多いように思う。
実際 当店のカフェ利用の中で占める割合も多いように思われる。
昔からの習慣が潜在意識の中で働いているかはわからないが。
成美堂出版 「おいしいコーヒー事典」より資料抜粋
